研究課題

「幾何学的フラストレート系の新物質開拓」

正方形と正三角形の頂点に、上向きと下向きの矢印を、隣同士お互い逆向きに並べることを考えます。正方形の場合には上下上下と並べればちょうどよいですが、正三角形の場合には3個目の矢印を配置しようとしたときに困ります。1個目と2個目の矢印との関係を同時に満足させることができません。この矢印が電子のスピンだとすると、このような正方形を繋げた正方格子にスピンが並んだ反強磁性体の場合には、下図に示したような反強磁性秩序状態が最も安定になりそうですが、正三角形の場合にはどのようなスピン配列が最も得になりそうか分からなくなってしまいます。これを幾何学的フラストレーションとよび、このような状況が現れる原子の配列パターン(格子)のことを幾何学的フラストレート格子とよびます。このような原子配列をもつ物質では、普通の物質で現れるような単純な磁気秩序や電子状態が不安定となる結果、通常の物質ではまず現れ得ないような変わった電子状態が実現します。また、単純な状態の代わりにどのような状態が選択されるかは物質の個性を反映して様々ですから、新物質開拓の研究がとても活躍できる舞台でもあります。幾何学的フラストレーションが働く系では、新しい物質を見つけた数だけ、新しい物理現象を発見できるチャンスがあるということができるかもしれません。

幾何学的フラストレーション.正方形の場合には問題なくスピンをお互い逆向きに並べることができるが(左),正三角形の場合には難しい(右).

我々はこれまでの研究で、カゴメ構造[1]、パイロクロア構造、三角格子といった様々な幾何学的フラストレート格子をもつ新しい磁性体を世に送り出してきました。なかでも、ハイパーカゴメ[2]やブリージングパイロクロア[3]といった新しいタイプの格子をもつフラストレート磁性体を実現したことは、我々の研究の特徴の一つです。これらの物質の純良粉末試料や単結晶を合成し、それらを用いて、国内外の多くの研究グループと共同で様々な物性測定を行うことにより、例えばブリージングパイロクロアLiInCr4O8では四量体一重項と解釈し得るような状態など、様々な変わった磁気状態を見出してきました。今後も新物質開拓を続けることで、これまでにない電子状態や電子現象を実現するようなユニークな物質の発見を目指します。

カゴメ構造(左):正三角形が頂点を共有して繋がった二次元格子.ハイパーカゴメ構造(中):カゴメ構造の三次元版.ブリージングパイロクロア構造(右):大小の正四面体が交互に繋がった格子.

[1] "Vesignieite BaCu3V2O8(OH)2 as a Candidate Spin-1/2 Kagome Antiferromagnet",
Y. Okamoto, H. Yoshida, and Z. Hiroi, Journal of the Physical Society of Japan 78, 033701 (2009).

[2] "Spin-Liquid State in the S = 1/2 Hyperkagome Antiferromagnet Na4Ir3O8",
Y. Okamoto, M. Nohara, H. A. Katori, and H. Takagi, Physical Review Letters 99, 137207 (2007).

[3] "Breathing Pyrochlore Lattice Realized in A-site Ordered Spinel Oxides LiGaCr4O8 and LiInCr4O8",
Y. Okamoto, G. J. Nilsen, J. P. Attfield, and Z. Hiroi, Physical Review Letters 110, 097203 (2013).

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