研究目標 各研究課題の紹介

「新奇な量子現象・革新的な電子機能を示す結晶性固体の新物質開拓」

私たちが住んでいる世界は、たった100種類程度の元素の組み合わせから構成されています。これらが、ミクロの世界を司る量子力学の法則に従いながら、クーロン相互作用により結びつく、いわば、とても単純な世界です。けれど、我々が手にする物質は把握できないほどさまざまで、多彩な性質を示すことを私たちはよく知っていて、現代を生きる人類は、これを巧みに利用することで、豊かな生活を送ることができています。

このように、物質の世界はとても多様ですから、中にはとても変わった性質を示す物質もありますし、これまでに見つかっていない物質の中には、私たちの常識からかけ離れた、とんでもない性質を示す物質もあるかもしれません。けれど、そういう変わった物質も含んだ形で、全ての物質は、私たちが住む世界を統べる普遍的な物理法則に従っているはずです。そのような視点から私たちの住む世界を見渡すと、際立った性質を示す未発見の物質がまだまだ数多く眠っているように思われます。もし、そんな物質を我々の研究によって発見できたとしたら、大げさにいうとその発見以前の人類には見えていなかった、いわば、新しい物理の開拓に繋がると思います。

私たちの研究室の目標は、全ての元素を使って、物質の性質を理解する学問:「物性物理学」にとって新たな謎を提示し、その進化に貢献するような新しい固体物質を開拓することです。また、そういう物質は、既存の物質とは本質的に異なる応答を示すでしょうから、これは、人類の役に立つ、新たな機能の実現にも繋がるはずです。そのような素晴らしい物質を見つけることは簡単ではなさそうですが、偉大な先人達が積み上げてきた「固体化学」の知識に基づいて努力を続けていけば、必ず発見できると思います。d電子が活躍する、遷移金属元素を含む無機化合物を中心に、あらゆる元素を対象として、新規物質のアイデア、データベースを駆使して得られる情報、様々な合成手法を組み合わせた物質開拓を行うことによって、この目標の達成を目指します。

例えば、とても対称性が高いけれども複雑な原子の配列(結晶構造)をもつ新物質を創ることで、変わった性質をもつ新超伝導体や、これまでにない電子スピンの配列をもつような磁性体を発見できるかもしれません。また、究極の低次元結晶といえるような物質に着目することで、電子の力により高い効率で熱エネルギーと電気エネルギーを変換できる材料や、外場により大きく体積が変化する新材料を開発できるかもしれません。

しかし、発見した物質がこのような注文通りの性質を示すことは少なくて、むしろ、予想外の性質が現れることの方が多く、そのような想定外の性質に出会えることが、我々が目指す物質開拓研究の本当の面白さなのではないかと思います。その際に、本当に面白く、また、人類の役に立ちうるような物質を見逃さないように、超伝導、磁性、エネルギー変換、電子自由度、体積機能、幾何学的フラストレーション、電子液体・電子液晶、トポロジー、スピン軌道結合といった様々なキーワードを見据えながら、際立った性質を示す新物質を探します。

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