最近の研究成果

さまざまな遷移金属元素を含む新しい超伝導体ファミリーの発見

遷移金属元素を含む化合物では、遷移金属のd電子がもつ強い電子相関(電子間相互作用)、磁性、軌道自由度といった特徴が、電子物性に顕著に現れます。このような「d電子系物質」に現れる超伝導は、物性物理学における中心的な課題の一つであり続けてきました。銅酸化物や鉄系の高温超伝導体は言うまでもなく、Sr2RuO4、NaxCoO2‧nH2O、KOs2O6、KV3Sb5など一世を風靡した超伝導体が数多く存在し、d電子のもつ特徴が絡み合うことで個性的で多彩な超伝導が現れました

しかし、d電子系の新超伝導体を発見することは簡単ではありません。例えば、上に挙げた超伝導体と同じ結晶構造をもちながら、異なる遷移金属元素を含む物質は数多く存在しますが、それらはほとんど全て超伝導を示しません。この事実は、超伝導が多くの金属の基底状態(最もエネルギーの低い状態)であることからすると意外かもしれません。しかし、遷移金属元素のd電子がもつ磁性や強い電子相関は、通常の金属に現れるような超伝導の発現を阻害してしまいます。そのため、各遷移金属の特徴と結晶構造が上手にかみ合ったときだけ超伝導が現れる傾向があり、その超伝導の振る舞いは既存の理論の枠組みでは説明できない変わったもの(非従来型超伝導)である可能性が高いように感じられます。

我々は、六方晶の対称性をもつSc6MTe2の物質群において7種類の新超伝導体を発見しました[1-3]。M = Fe,Co,Ni,Ru,Rh,Os,Irの7種類の遷移金属の場合に超伝導が現れ、その性質はMによって系統的に変化しました。例えばMが4dや5d遷移金属の場合には2 K程度の超伝導転移温度Tcを示しましたが、3d遷移金属の場合のTcはM = Ni,Co,Feの順に高くなり、Sc6FeTe2において最も高いTc = 4.7 Kを示しました。第一原理計算によると、Sc6FeTe2ではFeの3d軌道がフェルミエネルギーにおいて大きな状態密度をもち、高いTcの実現にとって重要な役割を担っていることがわかりました。一方、周期表においてFeの隣のMnの場合には測定最低温度である0.1 Kまで超伝導が現れませんでしたが、Sc6MTe2の超伝導が強い磁性をもつ相のすぐ近くで現れていることを反映している可能性があります。

現状では、Sc6MTe2Tc以外の超伝導の性質には、残念ながら上記のd電子系超伝導のような変わった性質は現れていません。しかし、同じ結晶構造をもちながら7種類もの遷移金属元素の場合に超伝導を示し、さらにTcに各遷移金属の特徴が現れたことは、本物質群ならではの特色といえます。Sc6MTe2の物質群の固体化学の観点からの重要な特徴として、Sc、M、Teの全ての元素を、結晶構造を保ちながら別の元素に替えられる点を挙げます。これまで、この結晶構造をもつ物質は100種類以上報告されましたが、超伝導を含む電子物性の観点からは未開拓です。我々は、この物質群に着目することでさらなる際立った電子物性を示す物質を見いだせると考え、物質開拓を続けています。実際に、新超伝導体Zr6MBi2などを発見しており[4]、今後の研究展開が期待されます。

Sc6MTe2の結晶構造(左),電気抵抗率(右),アーク溶解法により合成された多結晶試料(挿入図).

[1] "Superconductivity in Ternary Scandium Telluride Sc6MTe2 with 3d, 4d, and 5d Transition Metals",
Yusaku Shinoda, Yoshihiko Okamoto, Youichi Yamakawa, Haruka Matsumoto, Daigorou Hirai, and Koshi Takenaka, Journal of the Physical Society of Japan 92, 103701 (2023).
(JPSJ注目論文:新しい超伝導体ファミリー:異なる磁性元素をもつ7個の新超伝導体の発見)

[2] "Sc6MTe2:六方晶Fe2P型構造をもつ新しい超伝導ファミリー",
岡本佳比古, 山川洋一, 固体物理 60, 215-223 (2025).

[3] "さまざまな遷移金属元素を含む新しい超伝導体ファミリー",
岡本佳比古, 湯池宏介, 篠田祐作, 竹中康司, 日本物理学会誌 80, 240-245 (2025).

[4] "Superconductivity in Hexagonal Zr6CoAl2-Type Zr6RuBi2 and Zr6FeBi2",
Kosuke Yuchi, Daisuke Nishio-Hamane, Keita Kojima, Kodai Moriyama, Ryutaro Okuma, and Yoshihiko Okamoto, Journal of the Physical Society of Japan 94, 013701 (2025).

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