最近の研究成果

磁場により体積が大きく膨張する新材料の発見

ある物体に磁場を加えることで形や大きさが変化する現象は磁歪(じわい、または磁場誘起歪)と呼ばれ、大きな磁歪を示す材料は、磁場を加えることで変位や駆動力を得る磁歪アクチュエータに利用されてきました。現状ではピエゾ効果を用いた圧電アクチュエータがより一般的に使われるようになっていますが、磁歪アクチュエータは、精密位置決め素子やマイクロマシンの駆動部、力や位置の変化のセンサ、超音波を用いた魚群探知機や洗浄機といった、さまざまな機器に使用されてきた歴史をもちます。これまで、大きな磁歪を示す材料として、鉄と希土類元素の合金であるTerfenol-Dなどの超磁歪材料が開発されてきました。しかし、磁歪はいずれの場合においても、強磁性体の磁石としての性質である自発磁化の発現に伴って生じ、それ以外の仕組みで大きな磁歪を示す例はほとんど知られていませんでした。

我々は、Cr(クロム)とTe(テルル)からなる化合物Cr3Te4を焼き固めた焼結体が、9 Tの磁場を加えたときに最大で1200 ppm(1 ppmは百万分の一。1200 ppmは0.12%に対応します。)に達する巨大な体積の膨張を示すことを発見しました。この大きな膨張は、①-260 °Cから80 °Cに至る広い温度領域で現れる、②磁場中で形状をほとんど保ったまま体積が変化する、③幅広い磁場範囲でほとんど磁場の大きさに比例するといった特徴をもちます。磁場中で、結晶の単位格子が方向によって大きく異なる変形を示すことを利用した、焼結体ならではの新しい機構に基づく磁場誘起膨張現象であることが明らかになりました。また、Cr3Te4ほどではありませんが、Cr2Te3も磁場中で大きな体積の膨張を示すことも明らかになりました。上記の成果はCrを含む磁性体が次世代の磁歪材料として有望であることを示し、さらに磁歪材料の候補物質の幅を大きく広げると期待されます。

(a) Cr3Te4焼結体の磁場誘起歪.(b) 磁場誘起歪の概略図.Cr3Te4焼結体の磁場誘起歪は,体積変化が生じる等方的な歪(左)と,体積変化が生じない異方的な歪(右)の二種類の成分に分解できる.(c) Cr3Te4焼結体.(d) Cr3Te4焼結体の,9 Tの磁場を加えたときに生じる体積変化.

[1] "Large Magnetic-Field-Induced Strains in Sintered Chromium Tellurides",
Yuki Kubota, Yoshihiko Okamoto, Tomoya Kanematsu, Takeshi Yajima, Daigorou Hirai, and Koshi Takenaka, Applied Physics Letters 122, 042404 (2023).
(東京大学・名古屋大学プレスリリース:磁場により体積が大きく膨張する新材料の発見 ―新たなアクチュエータ材料としての応用に期待―)

[2] "クロム化合物磁性体における磁場誘起歪",
岡本佳比古, 竹中康司, 固体物理 58, 273-282 (2023).

次の研究成果へ

目次に戻る